そのチカラ、秋田の地から!〜ここでしか創れない未来〜
1.壁にぶつかったとき、「地域」と「人」とどうつながっていった?
丑田俊輔さん(以下丑田):とにかくいろんな人や自然や文化に依存先を増やしまくりました。自分個人でできることは大したことがない。壁にぶつかる前から人を頼る。その分野が得意な人たちと繋がる。生きる力がすごい林業のおじさんとか、地域おこし協力隊の若者や、果ては高校生にまで頼って(笑)。前提として、いろんな方たちと一緒に創りながら。壁にもぶつかりますが、ひとりのカリスマ的なリーダーがコントロールできなくても、自律的にそれぞれができることを持ち寄って、やっていく。そうすれば持続可能性も高くなるし、依存先を増やすことが、自律的に生きることに繋がるといいなと思いながら秋田暮らしをしています。
加藤マリさん(以下加藤):私自身、トンチンカンでいきあたりばったりなタイプで、一人では何も出来ないなと思うことはたくさんあります。わからない、困ったことがあれば誰かを頼る。人に聞く。そういうことがあって、色んな人との繋がりがゆくゆくは自分の力にもなったなと思っています。
高橋大就さん(以下高橋さん):例えばですが。良かれと思って発信する、発信しなくてはと思ってやると思うんですが、どんなコミュニティでもあることですが地域では大変なことが起きる。中のコミュニティだけで生きていると後ろから撃たれるとすごく辛い。ポジティブに発信しているけど、中では撃たれていることが多い。辛いことないわけないんです、だからこそやりたいことをやるべきだと思います。そういうときに、コミュニティの中だけに属していると本当に壊れてしまうから…。濃密なコミュニティを創りつつも、外とのコミュニティにも属していることが救いになりますよね。これまでも自分もそういう経験があります。
2.情熱(ワクワク感)を絶やさず、前を向いてこられたのは?
加藤:そこにいる人とか地域の自然、文化とか、心が揺り動かされた経験ってみなさんあると思うんです。「すごいな、この人と仕事がしたいな」って心が熱くなることが今のワクワクに繋がっていると思う。その経験があるからこそ頑張れる。すごい人がいる、良いものがある。それが原動力になっていると思う。
丑田:遊んでいるものがありすぎて、期せずして色んなことに出会ってしまう。出会ってしまった、というところが日々あります。自分だけではできないことばかりで。木こりのおじさん、農家さん、鍛冶職人さん、朝市のおばあさん。人生の師匠というか、生きる力がマックスの人たちがいっぱいいる。そんな人たちと遊び仲間になったら楽しそうだなと。そこからプロジェクト、ビジネス、ボランティアなどが生まれてきて、秋田に自分が動かされているような感じはしますね。
高橋:好きでやっているから、という一言に尽きるんですけど。震災直後からずっと続けてきてもちろん、責任感やパッションもある。ずっと東京にいて海外事業もやりながら、東北に通って…。続いてきたのは面白いから。インタレスティングではなく、ファン。楽しいということはとても大事だと思うし、楽しくないとやらないと思います。他の方にとってもそうだと思う。
3.面白いことに出会ったとき、一歩踏み出すことが難しいと感じる。
これからビジネスを始めようと思った最初の一歩、どう捉えている?
丑田:何パターンかあって(笑)。有無をいわさず巻き込まれて起業した、ということが学生時代ありました。その後、2019年に教育の会社を作ったのは、子どもが生まれて社会課題が気になるようになり、教育がもっと良くなってほしいなと考えて起業しました。秋田では、いつのまにか始まった感じです。この仲間たちとなら楽しいだろう、面白いだろうからやろう、という起業でしたね。
加藤:私もあるものを活かして農業をやろう、ということでスタートしたんですが。当初種を植えまくっていたときは全然お金が入ってきませんでした。売れなくてはお金にならず、続けていくことができない。熱い思いがなければ起業できなかったし、続けていくことも出来なかったなと思います。
高橋:ビジネスを始めるという話と、なにか「新しいことをやる」っていうということによってだいぶ違うかなと思うんですが。
ビジネスをやるとなれば、借り入れ、出資の受け手になることになるなら、責任も伴うし、事業計画がしっかりしていなければなきゃダメですよね。一方で思うのはこの国にあるボトルネックは違うところにあるんじゃないかと。起業するかしないかのハードルではなくて、もう少し手前に問題があるような。例えば授業中にトイレに行くのも先生に聞かなきゃいけないとか。例えば会議室を使う申請フォームを記入するときに、名前のところにハートマークを付けたいな、と思っても日本では許されないですよね。他の国ならハート付けることに何の問題もないんですよ。アメリカの大学に行った時、授業中に一番前の席で女子学生がりんごを食べてた。僕はそれに衝撃を受けたんですよね。誰にも迷惑を掛けていない、真剣に聞きながら食べているだけ。授業中にりんごを食べるようなこともできないような社会に生きてきた。人前で意見を言うことも出来ない。やりたいと思っても、やろうよと声を上げられない。ビジネスが大変、ということの前に取っ払えるハードルはあるなと思うんです。そういうハードルはなくしていきたいし、地域にはそういうハードルが未だに多いんですよね。
やりたいと思うことを実現するという社会になれば、その先にビジネスが生まれる世の中があるんじゃないかと思うんですよね。
4.教育の話が出ましたが、町から出ていった子どもたちとのつながりを意識した取組があれば教えてほしい。
丑田:廃校を活用したシェアオフィスに入居したのですが、以前は大企業の企業誘致を地域がめざしていた時代がありました。結果として、大企業の工場はこなかったけど、さまざまな企業が来て、今馬場目ベースには40社あって、街中には20個くらいのお店が出来ています。そうなるとさまざまな職種や企業があるので、選択肢が増えたと思います。選択できる多様性があるし、一定以上の給与水準が選べるようになれば、結果的に街に戻ってきたくなる、ということに繋がるのかなと思います。街の人、地域の人とのつながりが幼いころからあって、原体験としてあるのも大切なことだなと考えています。
高橋:出ていった人をどうするかとは違うかもしれないけど、高校を卒業して、就職の選択を迫られるときにゼロイチにしないというか。一社に絞らなくてもいいと。それをグラデーションにしたいと思っています。勤めながら起業にチャレンジすることもいいと思う。稼ぐための仕事をしながらライフワークに取り組んだり。選択肢を多様化できればと思っているんだけど、妨げるものとして企業の兼業禁止規定がある。マッチングの可能性が減ってしまう。競業避止はわかるけど、雇用主が勤務時間外を管理するのはおかしいのではないかと。オープンイノベーションの妨げにもなるように思う。
5.ワクワクから生業を生み出すためのアドバイスが欲しい
加藤:私が思うのは「ワクワク」から始まることはたくさんあると思うけど、とにかく続けてみるということが大事かなと(笑)。種を植えてお金がないからとやめてしまったら、何もできなかった。私の実体験から言えば、諦めずに続けていくこと。お金がないとそこからアイデアが生まれたりするので(笑)
丑田:田舎でしっかり稼ぐのはタフなこと。真摯に向き合ってお金を稼ぐのはとても大切なこと。その取組をどの経済圏でやるかを考えるのは間違えてはならないと思う。遊び場を作るとか、朝市を盛り上げていくことはボランティアでやっているんですが、そこで出会った方とビジネスを作り出してお金を稼ぐことができたりしています。アソビバはお金を作るつもりではなかったけど、大手の企業がそれを知って声をかけてくれたりしています。SNSで見つけてくれて、広がったり、知ってもらったり。今の時代の面白さだなと思っています。
高橋:テクニカルな話だと、月10万円の業務委託を3本取りましょうと。残った時間でチャレンジできると思うんです。業務委託もワクワクできるとより良いとは思いますけど、まずはライスワークとしてそれをやっていく。いきなり自分の生業を起業して回していくのはとても大変だし、ほぼないと思います。しなやかにワクワクに基づくチャレンジをすることは重要だと思います。とはいえ、月3本の業務委託を取るためには、なんらかのスキルは必要です。もっとジェネラルな話をすれば、食べていくことっていずれにしても大変です。ワクワクすることでも大変なので、ワクワクしないことで食べていくことはもっと大変なんじゃないかなって思いますね。